The woman at two p.m.





 パンネロの通勤路に例の場所がある。ちいさな本屋。まだ開店しておらず暗い店を横切るとき、いつも例の人物が立っている場所を盗み見るのが最近の彼女のくせだ。
 長身の、どうも年齢不詳な雰囲気を漂わせ他の人間とは一線を画している感が否めない女性。しかしそれはパンネロだけが感じている印象なのかもしれない。だって、パンネロに言わせれば不自然なほど、名も知らぬ自分以外の人間は彼女を普通の人間と認識しているようにふるまっているのだ。
 パンネロは毎週水曜日午後二時頃、自分が担当しているある作家の週刊雑誌に載せる小説の原稿を電車に乗って取りにいく。そしてその作家の元へいく時に必ずその本屋でその人物は立ち読みをしていて、帰ってくるときは必ずもういない。パンネロはいつも店の前を歩きながらガラス張りの向こうのその人物をながめ、いるとなぜか口元が緩んだ。この現象の原因はわからない。しかし全くなにも知らない彼女の存在感は不思議なほど強い。すこししか知らないが全く知らないわけでもない隣人にすら感じない感覚を、パンネロはただたたずむ姿しか知らないような人物に感じている。妙なことなはずなのにそう感じない自分がまた妙だ。
 パンネロは彼女を見かけるたびそれでなくてもそのちいさな店を横切り彼女を思い出すたび、いったいなにをしている人なのかと考えるのだった。彼女のことを考えているときは、なぜかまぶたが震えた。この感覚は見知ったものに似ている気がしたが、その憶測はパンネロの中で無意識に排除されていた。